うだるような暑さの夏。
朦朧とする意識の中で、少年は女神に出会った。
「あなたは、女神様…!」
『ここはトウキョウ最果ての地、マチダ。
迷える子羊よ、シンパの民に何かご用ですか』
女神の背後にいた、シンパの民と呼ばれた者たちが騒ぎ出す。
「アツイタノシイアツイ」「ケンガクシャダ」「ケンガクシャダ!」
マチダと呼ばれる場所で、数十の視線が値踏みするように少年に注がれる。
よく見るとシンパの民と呼ばれる女神の取り巻き達は皆、管のような物を口に咥えている。
「女神様、その手に持っている物は何ですか」
『ピッコロと言います。しかしこれは選ばれし者にしか扱えません。
サイズと価格が合いません。音程も合いません』
「女神様、とにかく暑くて死にそうです…水を、水をください…」
少年は限界だった。暑さで会話が頭に入ってこない。心なしか酸素も薄い気がする。
『ここに冷たいほうじ茶があります』
「……おぉ、ありがたい!」
感激した少年は、命の水とばかりにほうじ茶に手を伸ばす。600mlのお得なやつだ。
『なりません!』
「…!?」
『ここは飲食禁止です。ここはナガヤマではない』
(ナガヤマ…?)
その響きに聞き覚えがあった。確か自分は、いつだったか同じ真夏のうだるような暑さの日に、
ナガヤマという場所でシンパの門を叩いたのではなかったか。
「女神様、私はどこかであなたに…」
『そう、今も隣に』
「私はもしかして、シンパの民なのでしょうか」
『シンパティーア』
女神が微笑み、手を差し出す。
『さぁ、ピッコロを吹いてください』
「え」
『ピッコロお願いします』
そこで目を覚ました。指揮者が目の前にいて、自分はピッコロを持っていた。
今週でちょうど入団して3年が経つフルート団員の話。
(この物語はフィクションです)
【Fl.がーすー】